
私達は、世界各地の伝統薬物(民間薬やプロポリス等も含む)から、有用な薬物資源のシードとなる物質の探索をテーマに研究を行っております。 これまで数回、東南アジア(特に、べトナム、ミャンマー、インドネシア)に出かけ天然薬物資源の探索のためにフィールド調査を行っております。今回は、プロポリスの利用等についてインドネシア、ネパールで行った調査研究についてお話したいと思います。
インドネシア南スラウェシ州マカッサルのアピセラピーの診療所で聞き取り調査を行うことができました。ここでは、プロポリス以外にもさまざまな蜂の産物(蜂蜜や花粉など)を取り扱っていました。
プロポリス3%とニンニク25%に残り購形剤を混ぜたカプセルがありましたが、これは高血圧症や高コレステロール症に使用します。また、蜂が採集してきた花粉をカプセルにしたものはビタミン剤のように使うとのことです。その他、蜂の毒は軟膏の形でリウマチや頭痛、腹痛、歯痛の時に使用します。蜂蜜はまた点眼薬としても使用しています。
他に、花粉とロイヤルゼリーと蜂蜜を混合したものや蜂蜜も取り扱っていました。また、蜂の針を使う治療法も施していました。私たちが訪れたハサヌデイン大学では、林業学部や薬学部でアピセラピーの講義と研究を行っている専門の先生がおられ、学生に講義も行っているとのことでした。
ネパール産とブラジル産のプロポリスの違い
次に「ネパール産プロポリスの成分研究とブラジル産プロポリスとの相違」について述べたいと思います。ネパールのチトワンで2001年にプロポリスを採集しました。
今回抗炎症活性と関連深いNO産生抑制活性を指標にネパール産プロポリスの活性成分の研究を行いました。一酸化窒素合成酵素NOSのうち、nNOSとeNOSは哺乳類の細胞中で常に発現されており、細胞内カルシウム濃度の増加に対して一酸化窒素NOが合成されています。
誘導型NOS(iNOS〉は一定条件下のみで発現されます。細胞がエンドトキシン(菌体内毒素)や腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン-γ(IFN-g)、インターロイキン-1(IL-1)などの特定の前炎症性物質による活性化を受けたとき、iNOSによってNOが産生され、病原体のDNAを破壊することによって生体防御物質として、また恒常的活動を調節する分子として働きます。iNOSが誘導されるとすぐに、大量のNOが産生されます。NOの過剰産生は組織の揖傷をもたらす全身の臓器に有害な影響を有し、また、胎児の発育にさえも影響を与えます。
次にネパール産プロポリスについてですが、ネパール産プロポリスのNO産生抑制活性を指標に活性成分の分離を行いました。その結果、メタノールエキスに非常に強い活性があり、このエキスから、10の新規開環ネオフラボノイドおよび1つの新規カルコン、8つの既知化合物を単離しました。新規開環ネオフラボノイドは、NMRなどの各種スペクトルデータや化学的変換によって構造を明らかにしました。
ネパール産プロポリスの基源植物
次にネパール産プロポリスの基源植物について単離した化合物から推測いたしました。その結果、チトワン近郊に自生しているダルベルギア属植物の含有成分と同じ成分が見出すことができたので、ネパール産プロポリスの基源植物はダルベルギア属植物であると類推しました。これまで、プロポリスの基源植物としては明らかになっているものをここに挙げます。
ポーランド産がベツラ属、アルヌス属、アルバニア産及びブルガリア産はポプルス属、イギリス産はポプルス・オイラメリカーナ、ハンガリー産はベツラ属、ポプルス属、ピヌス属、プルヌス属、アカシア属、また、モンゴル産はポプルス・スアベオレンス、オーストラリア産はキサントレア属、アメリカ合衆国産はポプルス・フレモンティー、ベネズエラ産はクルシア・ミノル、ブラジル産はバッカリス・ドラクンクリフォリアを基源とすることが知られています。
今回、ネパール産プロポリスの基源植物としてダルベルギア属植物を見出したのは初めての例です。しかしながら、ネパール産プロポリスは、これまで、健食や病気の治療等に使用されたことがなく、今後の課題として用量や毒性、副作用などを詳しく検討する必要があります。
プロポリスから300以上の化合物が報告
プロポリスは様々な植物基源からミツバチが採取した樹脂性の混合物で、古くから、民間療法に使用されてきました。近年、プロポリスは、健康食品として飲食物の中に広く使用されており、人々の健康を改善し、さまざまな病気を予防すると考えられています。このような幅広い生物活性から、プロポリスの成分とその生物活性に対する関心が高まっており、これまでに300以上の化合物がプロポリスから報告されています。
リポ多糖類(LPS)活性化マクロファージ様J774.1細胞における一酸化窒素NOに対する予試験を行ったところ、ネパール産プロポリスのメタノール抽出物は強い抑制活性を示しました。そこで、その活性成分を明らかにすべく、メタノール抽出物を分離・精製し、単離した化合物の構造解析を行いました。
その結果、10の新規開環ネオフラボノイドおよび1つの新規カルコン、8つの既知化合物を得ました。開環したネオフラボノイドをプロポリスから単離したのはこれが最初です。